【No.22】 ビーチリゾートが動き出した。ダナンの観光戦略から見えてくるもの

7月のダナンで、第11回「ダナン越日フェスティバル2026」が幕を開けます。文化交流とビジネス連携の場として定着したこのイベントには、長崎県をはじめ日本各地の自治体が関わってきた歴史があります。そしてその裏側で、ダナン市観光局は静かに新しい仕組みを動かし始めました。ビーチと笑顔の写真を発信するだけでは、もう旅行先は選ばれません。ダナンの動きは、その先を指しています。


7月9日、ダナン市の東海公園(ビエンドン公園)が、再び日本と向き合います。

 第11回「ダナン越日フェスティバル2026」です。伝統的な鏡開きに始まり、よさこいの演舞、武術交流、コスプレコンテスト、「越日友好のメロディー」コンテスト——会場には約100のブースが並び、両国の特産品・サービス・文化が4日間にわたって紹介されます。スポーツ交流も充実しており、サッカー、ピックルボール、野球体験、そして裸足で走るアーシングマラソンまで、バラエティに富んだプログラムが用意されています。ちょうど同じ時期、ダナン国際花火大会(DIFF 2026)の6週間に及ぶフィナーレを控えたこの街は、一年で最も賑わう季節の頂点を迎えています。

 ただ今年は、こうした華やかな景色の裏側で、少し違う動きが始まっています。

11年目を迎えたダナン越日フェスティバルと、日本の自治体の関わり

ダナン越日フェスティバルがダナンで始まったのは2014年のことです。ダナン市人民委員会と在ダナン日本国総領事館の共催でスタートしたこのイベントは、当初から単なる文化祭という枠には収まりませんでした。毎回、投資促進・観光誘致・教育・雇用をめぐるビジネス会議がプログラムの中核を担い、自治体間の連携交流が積み上げられてきました。今年も9日には「包括的戦略的パートナーシップ」をテーマにした会議が開かれ、投資促進や覚書(MoU)の締結が予定されています。翌10日には日本観光促進セミナーも設けられており、フェスティバルは文化と経済が交差する場として機能しています。

 2016年の第3回フェスティバルから積極的に関わりを深めてきた自治体の一つが長崎県です。長崎とベトナム中部の縁は、実に約400年前にまでさかのぼります。朱印船貿易が盛んだった17世紀初頭、長崎の貿易商・荒木宗太郎はベトナム中部(当時の安南国)との交易で活躍し、現地の王女を妻として長崎へ迎えました。「アニオー姫」と呼ばれ長崎の人々に愛されたこの王女の物語は、今も7年に1度、長崎の伝統祭「長崎くんち」の演し物「御朱印船」として受け継がれています。

 この歴史的な縁を礎として、長崎県はフェスティバルへの参加を通じてダナンとの交流を重ねてきました。そして2017年6月、長崎県はホイアン市のあるクアンナム省との間に友好交流関係を正式に締結します。締結にあわせて、長崎県はクアンナム省・ホイアン市へ「御朱印船」のレプリカを寄贈しました。このレプリカは現在もホイアン旧市街の一角、グェン・ティ・ミン・カイ通りに展示されており、400年を超える日越交流の象徴として、世界遺産の街を訪れる観光客を迎えています。

 その背景には明確な数字があります。日本は現在、ダナン市にとって最大の外国投資国であり、登録投資額は11億ドルを超え、260件以上のプロジェクトが進行中です。2024年には17万9千人を超える日本人観光客がダナンを訪れ、前年の約3倍に達しました。フェスティバルはこうした日越関係の「現在地」を確かめ、次の一手を探す場として、11年目を迎えた今もその役割を深めています。

ダナンが抱えていた、華やかさの裏側

ダナンは近年、観光地としての評価を急速に高めてきました。ミーケービーチ、バーナーヒルズの「神の手の橋」、隣接するホイアンの世界遺産。これらを軸に、韓国・中国・日本をはじめとするアジア各国からの観光客を取り込んできました。2024年にはコンデ・ナスト・トラベラー誌がアジアで訪れるべき都市の第2位に選出しています。

 しかしその内側には、ある種の焦りも見えます。

 最大の課題は、リピーター率の低さです。「一度行けば満足してしまう」という評価が根強く、観光スポットの顔ぶれは充実しているものの、何度も足を運ぶ理由を作ることに長年苦戦してきました。加えて、外国人観光客の構成が韓国人客に過度に依存してきたことも、市として公然と認識されている問題です。時期によっては外国人訪問者の半数以上が韓国人という状況が続き、市場の多角化は急務とされてきました。

 さらに、フーコック島やニャチャンなどベトナム国内のリゾート競合が急成長しています。フーコックはビザ免除措置とメガリゾート開発で存在感を増しており、ダナンが「一歩先を行く洗練された観光都市」であり続けるためには、マーケティングの次の一手が必要でした。

「呼ぶ」から「語らせる」へ

この課題に対してダナン市観光局が打ち出した仕組みが、「Danang Storytellers(ダナン・ストーリーテラーズ)」と名付けられた取り組みです。今年6月下旬、フェスティバルの直前に正式ローンチされました。

 従来、観光地が外国のインフルエンサーやメディアを誘致するやり方は、世界中でほぼ同じ形をとってきました。旅費と宿泊を負担して特定のクリエイターを招待し、決まった観光スポットを案内して発信してもらう、いわゆるファムトリップ(招待旅行)形式です。規模や予算の差こそあれ、日本の地方自治体がインバウンドPRとして実施している手法と、構造的には変わりません。

 ダナンが試みているのは、その発想を根本から入れ替えることです。特定の有名人を単発で呼ぶのではなく、「ダナンを愛するクリエイター」が自発的に参加し、継続的に発信し続ける仕組みをつくります。専用のオンラインプラットフォームを設け、登録したクリエイターが投稿するたびに、反響(エンゲージメント)の大きさに応じてポイントが付与されます。貯まったポイントは航空券や宿泊といった特典と交換できます。

 注目すべきは対象プラットフォームの幅です。FacebookやTikTok、Instagramといった一般的なSNSに加え、韓国のNaver Blog、中国の小紅書(Xiaohongshu)も対象に含まれています。日本市場を意識した施策として東京と大阪でプロモーションイベントを実施した直後のタイミングでのローンチという文脈も、偶然ではないでしょう。

現場から気になることを一言。

この施策の設計思想そのものは、面白いと思います。「発信者を呼んで帰す」ではなく、「発信者のコミュニティをつくる」という発想の転換は、観光PRの文脈において確かに新しいものです。

 ただ、ベトナムにおいてSNS上の数字は、想像以上に速く動き、また想像以上に「つくられる」ことがあります。エンゲージメント数に連動したポイント制は、裏返せば数字の操作に対して構造的に脆弱です。仕組みの精巧さと、その仕組みが実態を正しく反映するかどうかは、別の話です。

 成否の判断を下すには、まだ時間が要ります。ただ「試みとして興味深い」というだけでなく、「どこで機能し、どこで機能しないか」を見続ける必要があります。それはこれから徐々に明らかになっていくはずです。

ダナンが問いかけていること

ベトナム・日本フェスティバルの会場では今年も、日越の企業や自治体関係者が名刺を交換し、連携の可能性を探ります。400年前の朱印船が結んだ縁が、御朱印船のレプリカとしてホイアンの街角に佇む今、その関係は新たな局面を迎えています。

 しかし、今年のダナンを少し引いた目で見ると、もう一つの問いが浮かんできます。インバウンドの流れを引き寄せようとするとき、「呼びかける側」と「選ぶ側」の力学はいつの間にか変わっていないでしょうか。観光局がパンフレットを配り、ウェブサイトを整え、招待旅行を実施するだけで「見つけてもらえる」時代は、本当に続いているのでしょうか。

 ダナンが動き始めたのは、そこへの答えを持っているからではないと思います。持っていないから動いている、という方が正確でしょう。

 日本の地方が同じ問いに向き合うとき、ダナンの試行錯誤は他人事ではないのではないでしょうか。

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