【No.14】 シリーズ「ルールのある国への道」第2話:超高速改革の光と影——罰金急増が映し出す移行期の現実

トー・ラム書記長就任後、ベトナムは前例のない速度で行政改革を断行した。省庁再編、地方合併、成長目標10%超。数字は力強い。しかしその一方で、交通違反罰金の最大10倍への引き上げ、電子タバコ全面禁止など、市民生活への負担は急増している。改革の速さと定着は、別物だ。


第2話 超高速改革の光と影——罰金急増が映し出す移行期の現実

現在ベトナムで起きている変化の起点は、2024年8月の政治変動にある。

前書記長グエン・フー・チョン氏の死去を受け、トー・ラム氏が共産党書記長に就任。同氏は就任直後の2024年10月、「浪費との闘争」を訴える論文を発表し、行政の非効率・官僚主義を国家の敵と位置づけた。官僚的な行政手続きや非効率なオンライン公共サービスが企業や個人の時間・労力を浪費しているとまで言い切った。

その後の動きは、驚くほど速かった。2024年12月の共産党全国会議で大規模な行政機構再編の方針が示されると、わずか数か月後の2025年3月には中央省庁の再編が完了。そして2025年7月1日には、戦後最大とも言える地方行政改革が断行された。従来63あった省・直轄市が34省市体制に集約され、行政の階層も3層から2層へと簡素化された。

目標は明確だ。2045年までの高所得国入り。そのための中間目標として、2025年にGDP成長率8%、2026年から2030年には年率10%超の成長を目指す。国会はすでに2026年の成長目標を10%以上に設定し、政府もこれに歩調を合わせている。

数字の上では、この路線は順調だ。2024年のGDP成長率は7.09%、2025年は8.02%を達成。外国人観光客数は2025年に過去最高の2,120万人を記録し、公共投資も約850兆ドン(約5.1兆円)に達した。

しかし改革は、市民生活にも直接的な影響を与えている。

象徴的な例が、2025年1月1日から施行された政令第168/2024/ND-CP号による交通規制の厳格化だ。交通違反の罰金は大幅に引き上げられ、一部の違反では以前の約10倍にもなると報じられている。信号無視、逆走、一方通行違反といった「以前は当たり前だった行為」が、突然、重大な違反として取り締まられるようになった。

施行からわずか5日間で、ホーチミン市だけで6,000件を超える交通違反が検挙され、罰金総額は100億ドン(約6,200万円)に達した。取締りは本物だ。

加えて2025年には、電子タバコ・加熱式タバコの全面禁止も施行された。使用者には300万から500万VNDの罰金と機器没収が明文化され、使用を容認した施設管理者にはさらに重い罰則が科される。社会保険の加入対象もパートタイム労働者や個人事業主にまで拡大され、外国人も例外ではなくなった。

問題の本質はここにある。ルールが増えるスピードが速すぎるとき、市民は「守る」より先に「混乱する」。特に低中所得層にとって、突然の罰金増額や社会保険負担の拡大は、家計に直結する問題だ。都市部の活気ある風景の陰で、こうした負担増に静かに疲弊している人々がいることは、メディアの経済報道には映りにくい。

「改革の速さ」と「改革の定着」は、別物だ。組織は変わった。数字は伸びている。しかし制度が現場に根付き、運用が透明化されるには、別の時間軸が必要だ。トップダウンの号令で形を変えることはできても、長年染みついた行政文化や慣行は、そう簡単には変わらない。

次回、最終話ではこの問いの答えを国際データとともに導き出す。

※本記事は、ベトナム24年の駐在経験と、ジェトロ調査報告、ベトナム政府発表データ等の公表情報をもとに執筆しています。

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